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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)689号 判決 1962年11月20日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人万代蕃の上告理由について。

所論手形割引の方法によつて破産会社が被上告銀行より融資を受けた債務、すなわち右割引の都度成立せしめた金員消費貸借上の債務についてなした破産会社の被上告銀行に対する所論弁済行為を以て、上告人が本件否認権の対象として主張していることは、記録ならびに原判決の事実摘示(第一審判決引用)に照し明瞭であるところ、原判決が上告人の主張する右消費貸借の成否ならびにその債務の弁済行為の存否について認定判断することなく、前示割引にかかる手形につきなした破産会社の買戻行為ないしいわゆる支払行為が否認権の対象となりえないことのみを論考し、よつて上告人の本訴請求の理由ないことを結論していることは、論旨第一点指摘のとおりであつて、原判決は、正に判決に影響を及ぼすべき事項につき判断を逸脱するものというべきである。

なお、原判決は、右論考にあたり、第三者振出にかかる約束手形の割引人が割引依頼人から原判示にいう手形の支払を受け、あるいは満期前に割引依頼人の買戻要求に応じ手形を売り戻し、その手形が振出人に返還された場合には、もし後に右が否認されるとすれば、割引人はもはや振出人に対して権利を行使する方法はないことになるから、このような場合にも破産法七三条一項の適用ないし類推適用により割引人を保護すべく、右支払ないし手形買戻行為の否認を許すべきでないと説示するが、同法七三条一項は、破産者から手形の支払を受けた者がその支払なかりせば前者に対する遡求権行使のための法定手続を履践しおいたであろうことを考慮する制度であり、同条項にいう「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」とは、前者に対する遡求権を指し、「手形ノ支払」とは、約束手形にあつては振出人の支払を指すにほかならないから、本件のように振出人でない破産会社が原判示のいわゆる支払ないし手形買戻をした場合には、同条項を適用ないし類推適用する余地は全くないというべきであつて、原判決の同条項適用の誤りを指摘する論旨第二点も理由がある。

よつて、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すべく、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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